好きな俳優をひとり挙げて、といわれたら、トニー・レオン。と答える。
『インファナル・アフェア』の潜入捜査官がとにかく印象に強くきざまれているが、もっと強烈にひきこまれたのがウォン・カーウァイ監督が手掛けた一連の作品たちだった。
と、いうことを、20年ぶりに思い出した。映画館のなかで。
好きな映画を1本挙げて、といわれたら、わたしは『花様年華』と答える。その作品を、ありがたいことにスクリーンで観る機会にめぐまれた。
とても、よかった。
チャイナドレスを纏ったマギー・チャンは最初から最後まですべからく美しかったし、憂いを帯びた表情で煙草をくゆらせるトニー・レオンは相変わらず渋かった。(ちょっと冴えない感じもいいのである)雑多にうつろいゆく60年代の香港の空気は、自分が見てきたわけでもないのになんだか懐かしい感じさえした。
なぜ若いときの自分がウォン・カーウァイ作品にこころひかれたのか、今でもよくわからない。「映像がかっこいい」とか「なんか雰囲気がいい」とか「俳優さんたちが素敵」とか、ごくごく表層部分の好みもあっただろうけど、決してそれだけでは人生イチ押しにはならないはずだ。
今回、この映画を評しているものをいくつか読んでみた。作品の背景に、香港がたどってきた歴史の大きな流れがあることをあらためて知る。凝縮されているのが個人の恋愛や人生だけではないことが、多くの人に支持されてきた理由なのかもしれない。