#501 わたしのすきなこと【三日坊主とひとりごと】

ライターや編集者なんて仕事をしている人は、みんな活字中毒か文学少年・少女か、そんな人ばかりだと思っていた。

だから仕事仲間と「好きな文体」の話をしようとしてなんかキョトン、とされたときは「あれっ?」と不思議に思ったけれど、そのうちだんだんと、同業者でも意外とそういう人が多いのだと知った。

いや、意外と、じゃないな。むしろわたしみたいなヤツの方が希少なのだと思い知らされた。

最初に「文体」を意識したのはいつだっただろう。たぶん原点は中学生のときに読んだよしもとばななさんの小説で、次に村上春樹さん、司馬遼太郎さんと続くと思う。

いわばわかりやすく、個性的な文体の作家さんたち。

文体の違いを楽しむようになって、「好きな作家」は増えていった。

小川洋子さんのものがたりにただよう残酷な静謐さ、藤沢周平さんのうつくしい季節や情景の描写、西加奈子さんのやわらかで独特な間合い。

翻訳小説にも文体の違いがあって、わたしは清水俊二さんが訳しているレイモンド・チャンドラーの翻訳文体がとても好きだ。

最近は松本清張さんの短編をよく読んでいるのだけど、ムダのないみごとな心理描写と、切れ味するどい構成にため息が出るばかり。

「誰かみたいに書きたい」と思ったことはあまりないのだけど、わたしの文章は、たぶんその時々に集中して読んでいる作家さんの文体になんとなく引っ張られていると思う。

新たな文体に出会えば、また変化があるだろう。