生まれ育った町は、とても田舎だった。
隣家(といっても、たぶん100mくらい離れている)との間には田んぼとあぜ道が広がっていた。自宅のウラ側には小さな竹の林があって、家の前の空き地は十数年のあいだ放置されたままになっていた。
徒歩1分のところにあった公園はだだっ広く、その近くを大きな岩がゴロゴロ転がったままの川が流れていた。最寄り駅は18時頃になると無人になった。コンビニは駅前に1件しかなかった。大きな本屋に行きたければ、隣町まで車を20分走らせる必要があった。
そんな町で育ったから、大学生になって茨城県つくば市で暮らすようになったとき、わたしは狂喜した。
当時はまだ、つくばエクスプレス開通前である。都会出身の友人たちは口々に「ここは陸の孤島だ」とグチをこぼしていたけれど、なにしろ自転車さえあれば書店やCDショップやカフェやコンビニに行き放題なのだ。それ以上、求めることは何もなかった。
東京で暮らすようになって、早15年。
学生時代とは比べものにならないほどの恩恵を受けているはずなのに、やっぱり「東京」はどこか、独特な街だなと思う。
もうすっかり慣れてしまって違和感すら抱かないけれど、ちょっとだけ郊外の街に足を運んだときに「あれっ?」と驚くことがある。
体感する空間の広さ。公共スペースの存在。空の近さ。生活のにおい。
そろそろまた、そういう街に根を下ろして、暮らしてみてもいいのかもしれないと思う。
※経営合宿で訪れた柏の葉キャンパスにて