ふと、夜中に目が覚めた。枕元のスマホをたぐり寄せると、ぼんやりと「AM2:40」くらいの表示が見える。
あれからどうしたんだっけ。ちょっと仕事してお風呂はいってから寝ようと思っていたんだけど。18:00頃に早めの夕飯を食べた後の記憶が、あまりない。
ふと脇に目をやると、1/3くらいのページを開いたままベッドに伏せられている文庫本が目に入った。そこではたと思い出した。
「あ、そうだ。本読んでたんだわ」
ベッドでぬくぬくと小説を読んでいて、完全にその世界の中に没入してしまい、挙句の果てに寝落ちしていたらしい。
翌日(というか今日)の予定がぐるりと頭の中を一巡する。1週間がはじまれば、またすぐに仕事モードだ。小説の世界観にひたるスキマはなかなか見つからないだろう。
ためらうことなく、再び文庫本を手に取った。午前3時前。
開いてあったページにざっと目を通すと、昨夜、時間を忘れるほど入り込んでいた世界に一瞬で引き戻された。
ぶ厚い文庫にして3巻分のものがたりは、もう終盤にさしかかっていた。
登場人物たちの緻密な心理描写はますますさえわたり、人間が抱える深淵があちこちから顔をのぞかせている。一人の人物の行動にこれでもか、とばかり接近したかと思えば、いきなり突き放したような展開が待ち受ける。
最後の1文を読み終えたときには、すっかり窓の外が明るくなっていた。
圧倒的な読書体験だった。だから読書はやめられないのだ。