#291 背伸びして手にとった、あの頃の本棚【三日坊主とひとりごと】

私の地元は田舎で、少し大きな本屋にいくためには
車で20分ほど、走らなければならなかった。

だから中学を出るまでは、
新刊書店で好きな本を買う、というのは
私にとってそれなりに特別な行為だった。

ただ、その代わり。

私の実家には、本棚にぎっしりつまった
父と母の蔵書があった。

世界中の偉人がそろった伝記とか、
「世界名作撰」「◯◯文学全集」みたいな
分厚くてやたらと重い、年季の入った本。

小学生の頃から、わけもわからず背伸びして、
読めるものは片っ端から手に取った。

誰に強要されたわけでもない、
「この本を読んだ人はこれも……」という
レコメンドなんて、もちろん、ない。

ただ表紙とタイトルをみて、
「これは読めそうかな」みたいな勘だけで、
活字の世界に没頭していった。

ときどき、あの実家の本棚を思い出す。
あれは、ひとつのできあがった世界だった。

あの本棚に、私の原点がある。
活字への愛を育んでくれたのは、
まちがいなくあの本棚だった。