#028 いつかの私へ【三日坊主とひとりごと】

母が亡くなったのは、3月のことだった。
あれからもう、6年がたつ。

その年の桜が咲くのを
待つことなく、
母は逝ってしまった。

葬儀を終えて、
なんだかよくわからない
フワフワした気持ちのまま

私は東京に戻ってきて
いつの間にか、また日常がはじまった。

正直、当時自分が何を考えてすごしていたのか
あまり思い出せないのだけど

その年の5月が、
まるで拷問のようだったこと。

それだけは、未だに忘れられない。

街中にあふれる
「お母さん、ありがとう」
という言葉

胸の奥をえぐるような
真っ赤な色のカーネーション。

それは25年も生きてきて、
はじめて知った「痛み」だった。

私は、完全にとじた殻のようになって
その1か月、街の気配をやりすごしていた。

今では、穏やかな気持ちで
この日を迎えられるようになったけれど。

毎年、店頭にカーネーションの花が
顔を出しはじめると

この喧噪のどこかで、
いつかの私と
同じ思いをしている誰かに
そっと、思いを馳せる。