『だれかがふりむいた! どきん』
なぜだかわからない。ぜんぜん、なんでだったか今でも思い出せないのだけど、わたしはそこに並んだ言葉にどんどんひかれていった。
口に出して読んでみる。心地いい。目で活字を追うだけでもなんだか楽しい。リズムを刻む。並んだひらがなが音階のように見えてくる。
詩人・谷川俊太郎さんの作品『どきん』。
子ども向けに書かれたやさしい詩集である。和田誠さんのイラストが、とてもよく似合う。
はじめてその詩集を手にしたとき、わたしは小学生だった。
そのときもうすでに、活字中毒歴10年くらいだったはず。読める本は、片っ端から手にとっていた。
児童書、童話なんかはもちろんのこと、子ども向けの伝記やノンフィクション作品なんかも背伸びして読んでいたと思う。
そこに突如としてあらわれたのが「詩」の世界への入り口。谷川俊太郎さんの詩が、そのトビラを開けてくれた。
いつしか、「言葉」や「文章」を生業にするようになったわたしは、『どきん』との出会いから25年近くがたった今年、東京オペラシティで開催されている「谷川俊太郎展」を訪れた。
ポスターに書かれた1文を読んだだけで、なぜか泣きそうになってしまった。
「私は背の低い禿頭の老人です」ーー。
子どもの頃、わたしはこの人から、言葉の“楽しい一面”を教えてもらったんだ。
『どきん』をくりかえし読んでいた頃の自分を思い出して、そうしみじみと思った。
(つづきます)
▲谷川俊太郎展 @東京オペラシティ
http://www.operacity.jp/ag/exh205/