世の中のことなんてなにひとつ知らなかった10代のころ、インドアで社交性にも乏しく、毎日だいたい学校と家の往復を繰り返していた私の世界を広げてくれたのは、間違いなく本だった。
OLが登場する小説を読んでは「女の人というのは大人になるとこういう感情を抱くのか」と考えてみたり、ミステリーに登場する孤高の探偵に憧れてみたり、古代文明の謎にドキドキしたり。
そして私は、高校3年生の夏にたまたま手に取った、山崎豊子さんの『大地の子』に衝撃を受けて、大学の史学科を受験することにした。
小説ではあるけれど、綿密な歴史的事実の取材を重ねて作られた、ノンフィクションに近い作品。
歴史が好きだったので、関連する本は他にもたくさん読んでいた。ただ後にも先にも、あれほどひとつの小説に圧倒されたことはないような気がする。
本を読むことは楽しいばかりではなく、ときに自分の無知や無力さをつきつけられることもある。『大地の子』は、まさにそんな本だった。
だから、かもしれない。仕事三昧の日々を送るようになると、みるみるうちに読む本のジャンルが偏りはじめた。
自分自身が対峙している“ノンフィクション”の現実と向き合うのに精一杯で、他人の物語に耳を傾ける余裕はなくなっていた。
ようやく最近になって、ノンフィクション作品をまた、読みはじめている。
やっぱり、自分の無知をつきつけられるばかり。でもそこから、新しい何かが見えてくることも、ある。