#310 わたしは、松方弘子になりたかった。たぶん【三日坊主とひとりごと】

「あたしは 仕事したな——って 思って 死にたい」 (安野モヨコ作『働きマン』,1巻 P30)

なんで活字中毒なのか、どうして書くことが苦じゃないのか、就職するときこの業界を選んだ理由は。

わたし自身をとりまく大体の“Why”には、答えが見つかった。大人になってから、いろいろと「棚卸し」をした結果。

ただどうしてもひとつだけ、自分でもまるで腑に落ちていなかったことがある。

「わたしはなぜ、こんなに仕事人間になったのか」

子どもの頃、周囲にそんな人がいたわけではない。両親はどちらも家庭第一の人だった。

最初に入った会社が忙しかったから? それともなにか特別な使命感に燃えていた? ……それもたぶん違う。あの頃はただ生きるのに必死だっただけだ。

ぼんやりと考えていたとき、ふと彼女のことを思い出した。

この作品が発売された当時(2004年)、わたしはまだ大学生だった。

仕事のなんたるかなんて、微塵も理解できていなかった。もっといえば、週刊誌の記者やジャーナリストの仕事にも全く興味はなかった。

ただわたしの目にひたすらまぶしく映ったのは、「自分の仕事」とがっつりタイマン勝負している松方弘子の姿だった。

あのとき、わたしはたぶん、彼女の生き方を心底「うらやましい」と思ったのだ。

2017年の年末、十数年ぶりに、わたしは『働きマン』のページを開いた。彼女はそこで、相変わらず不器用な真剣勝負を繰り返していた。納豆巻き食べながら。

「あたしは 仕事したな——って 思って 死にたい」。

やっぱりわたしも、そんな最期がいい。