私の地元は田舎で、少し大きな本屋にいくためには
車で20分ほど、走らなければならなかった。
だから中学を出るまでは、
新刊書店で好きな本を買う、というのは
私にとってそれなりに特別な行為だった。
ただ、その代わり。
私の実家には、本棚にぎっしりつまった
父と母の蔵書があった。
世界中の偉人がそろった伝記とか、
「世界名作撰」「◯◯文学全集」みたいな
分厚くてやたらと重い、年季の入った本。
小学生の頃から、わけもわからず背伸びして、
読めるものは片っ端から手に取った。
誰に強要されたわけでもない、
「この本を読んだ人はこれも……」という
レコメンドなんて、もちろん、ない。
ただ表紙とタイトルをみて、
「これは読めそうかな」みたいな勘だけで、
活字の世界に没頭していった。
ときどき、あの実家の本棚を思い出す。
あれは、ひとつのできあがった世界だった。
あの本棚に、私の原点がある。
活字への愛を育んでくれたのは、
まちがいなくあの本棚だった。