「しゃべること」がとにかく、苦手だった。
できれば人のカゲに隠れていたくて
ばんばん前に出ていく人が、身近にいるとほっとした。
面接、プレゼン、人前の挨拶。
穴があったら常にもぐりこみたかった。
なにしろ、瞬発力がない。
気の利いた言葉が出てこない。
「書くこと」は、まあまあ得意だったけど、
それは一旦、持ちかえって、頭の中で整理して、
構成をああでもない、こうでもないと並べ替えて、
何度も推敲することができるからだ。
でも、あるとき何かの本に書いてあった言葉に
頭をガツン、と殴られたような気がした。
「苦手だというが、練習はしているのか?」
私は人前でうまくしゃべれないことを、
なぜか性格のせいにしていた。
素振りからはじめなければ、
野球の試合でホームランを打てないように。
何もしないで、できるようになるはずはない。
練習をするようになって、
少しだけ、しゃべることが苦ではなくなってきた。
まだまだ上手な人には及ばないけれど。