#167 夏の記憶、東京【三日坊主とひとりごと】

「うだる(茹だる)ような暑さ」
とはよくいったもので、

電車を降りた瞬間に
一瞬で体にまとわりつく熱気

大きく息を吸い込んだり
夏空を見上げたりすることすら

なんだか
ためらってしまう。

記憶のなかにある“夏”。

家族で囲んだ
食卓のそうめんとか
氷の入った麦茶とか

夕立が上がったあと
家のなかを通り抜ける
風の心地よさとか

炎天下のなかで
真っ黒に日焼けしながら
必死にテニスボールを
追ったこと

図書館に通いつめて
片っ端から読みたい本を
読みあさったこと

いつか、東京の“夏”の記憶も
ノスタルジーとともに
よみがえる日がくるのだろうか。

スーツとヒールで
コンクリートジャングルを
汗だくで歩きまわった日々

キンキンに冷えた満員電車で
その温度差にくじけそうになったこと

猛暑のさなか、
さっさと秋冬の衣装をまとって
涼しい顔をしていた
ショウウィンドウのマネキンたち

……私は、東京の街がすきだ。

ただ毎年、夏になると
ちょっとだけどこかへ
逃げ出したくなる。