#004 活字の向こうの名探偵【三日坊主とひとりごと】

ライターである私にとって、
「読書」という行為の意味することはふた通りある。

1つは、文体や表現、全体の構成をなぞるように
職業的視点から、活字を追う「読書」。

もう1つは、読みたいものを読みたいときに、
欲望のまま活字の海にダイブする「読書」。

前者も、もちろん楽しいのだが
やはり後者。その至福のひとときは、何にも代えがたい。

特に、私にとっていちばん魅力的なのは
ハードボイルド小説だ。
一度本を開けば、いつのまにか孤高の名探偵の隣で
息を詰めて、ものがたりの行方を追う自分がいる。

あるとき、ふと気づいた。
日常に疲れているときほど、探偵モノが読みたくなる。
ファンタジーでも、SFでも、歴史小説でも、恋愛小説でもなく。

孤高の名探偵は、くたびれきっている私に絶対、謎を残さないから。

スマートに、とはいいがたいこともあるけれど、
文庫一冊分の謎をきっちりと解き明かして、

彼らは泥臭く、タフなものがたりの向こう側へと消えていく。