#688 末端【三日坊主とひとりごと】

自分が何に迷っているのかわからない。そもそも迷いがあるのかすらわからない。「迷い」とか「葛藤」だと思っているものはただの怠惰な感情であって、逃避でもあって、自分自身から思い切り顔をそむけているから、いつまでも向き合えずに追われてばかりいる。

ふとそんな気がした。

そんなことを考えてもどうしようもないので、感情が不毛に揺れ動いてしまうのを押しとどめるべく、身体の末端をやたらと丁寧に、ていねいに整える。

例えば、指先。突然、ケアに目覚めて、ハンドクリームやら就寝用の夜用手袋やら、ネイルオイルやらを買い揃えた。すぐに使えるようにデスクにも設置する。ちょっとひと息つきたいときに、アロマの香りがするネイルオイルを、ばかみたいにていねいに、両手の爪先にすりこんでいく。

ずーっとかさついてぼろぼろだった指先がうるおうと、その様が自然に目に入るので、なんだかわからないが心の底からほっとする。この感情の正体が、何なのかわたしにはまだわからない。

例えば、目元。加齢があらわれはじめた重いまぶたは、かさつきやかゆみがたいそうひどいので、そっと低刺激のクリームをのせる。アイメイクを落とすための洗顔料も新調した。今まで適当に扱ってきたツケも、大いにありそうだ。

誰のためでもない、自己表現のためですらない、自分自身のこころの平穏のために、丁寧に、無心にクリームやオイルをすりこんでいく。その先にはたぶん、何もない。