このあいだ「簡単に“命削ってやってる”とか言ってくれるな」という旨のことを書いたのだけれど、それは例えば「心がふるえる」なんて言葉も同じだ。
そう、同じ。だから自分でも滅多につかわないし、そう感じることもそうそうない。
ないんだけど。
昨年、ほんとうに久しぶりに「心がふるえる」作品に出会った。よしながふみさん作の漫画『大奥』。
江戸の大奥が舞台と聞くとどうしても、女同士の修羅場、男女の悲恋などの印象が強すぎて、この作品もなんとなく、手を出さないまま時間がたっていた。(そもそも、よしながふみさんの作品自体、あまり読んだことがなかったのもある)
読みはじめたとき、すぐにわたしは激しい後悔に襲われた。なんで今まで、こんなすごい作品に触れていなかったんだ!
先週、鬱々としていたなかでふとまた読み返したくなり、1巻を開いたらそこからまた手が止まらなくなった。
決して、鬱々としたときに軽々しく没頭していい類のものがたりではない。描かれていることはどれもヘビーすぎるから。でもなぜか今回は、そんなことも忘れて完全にものがたりの世界に埋没してしまった。
男も女も関係ない、人間の宿命というか、業というか、理不尽で得体のしれない何かに翻弄される人たちがそこにいて、それは単に「歴史の中のできごと」でも「フィクション」でもなく、現代社会にまでつながっている一本の糸になっている。
すさまじい作品だと思う。また、心がふるえた。