文章を書いたり編集をしたりする仕事をしていると、おそらく誰しも突き当たる一つの問いがある。
「文章の精度を、どこまで高めるべきか?」
うちの会社が取り扱うのは、商業ライティングである。企業が広報活動で使う文章、コンテンツをつくる。何かしらの経営課題を解決するため、企業活動に貢献するために。
そこで、いつも迷いが生じてしまっていたのが、文章の精度についてだ。
わたしは大学を出てはじめて働いたのが、雑誌の制作をしている会社だった。とある月刊誌の進行管理を担当していて、毎月のように、編集部から送られてくる赤字ゲラをみていた。
深夜まで待ってようやく受け取ったゲラに、漢字の閉じ開き、微妙な言葉のニュアンス調整、1ミリ単位の文字詰め指示など、とにかく細かい修正が入っていて、「プロの仕事とはこういうものか」と感銘を受けたものだった。
どうしても、その記憶が自分の中に鮮烈に残っている。
ただし、だ。商業ライティングの場合、文章の「美しさ」や「精度の高さ」は、必ずしもビジネス的な成果には直結しない。
時間やコストと戦いながら、目の前のこだわりは単なる自己満足なのか、それともプロなら断じて貫くべきか、逡巡することがある。
でも「うつくしい仕事がしたい」欲は止められない。だから声高に主張することなく、そっとこだわりを言葉にこめていく。
たぶん、誰のためでもない。この仕事を選んでいる以上、それが義務のような気もしている。