20代の頃のわたしは、日本では大多数を占めるであろう「ごくふつうの意識をもった会社員」だった。と思う。
会社に就職して働くのは当たり前。週に5日、1日に8時間(以上)会社にいるのも当たり前。サービス残業も当たり前で、まちどおしいのは土日と祝日とお盆とお正月。金曜日は華金。
やらなきゃいけないことが積み上がっていくことに不審をいだき、週末になると同僚と飲み歩いて仕事のグチに花を咲かせ、毎週行われる定例会議にうんざりしていた。
「それを変えていこう」なんて、微塵も思っていなかった。会社を変えても、きっと定年までそれが続いていくのだと思っていた。
考え方を変えざるを得なかったのは、29歳で勤めていた会社を退職すると決めたとき。
また「当たり前」のように転職先を探そうと思っていたわたしは、会社に何を求めるのか、自分が次どんな会社に入ったらいいのか、ひとつもイメージができず頭が真っ白になった。
結局、転げ落ちるようにフリーランスになったわけだけど、そこでわたしは愕然としたのだ。仕事とはなにか。雇用がどうやって生まれているのか。お金のこと。自由と責任。自分の実力。社会のニーズ。
何もわかっていなかった。おそろしいほどに。
そして今、わたしは小さいけれど「カイシャをつくる側」になった。ときどき、ずっと会社員をしている人との認識の差に気づいてハッとすることがある。
そこでいつも、かつての自分をぼんやり思い出すのだ。