4月某日、桜がまだ残る九段下の駅で家族と待ち合わせ。
妹が、なぜかEric Crapton来日公演のチケットを取ってくれたのだった。
「すごくファン」だったわけではない。でもとりあえず便乗することにしたわたしは、いそいそと日本武道館へ続く人の列に加わった。
2回席の前方、ステージの真横ではあったけど、なかなか良い席。
時間通り、会場の照明が落ちる。
何となしに開演を待っていたのに、1曲目のイントロがはじまった瞬間、いきなり20年の時の流れを一気に巻き戻されたような感覚に陥ってしまった。
あれは中学生の頃、英語の先生が授業で教えてくれた「洋楽」の存在。しゃがれ声のおじさんが歌う悲しい心情と美しいメロディ。
背伸びして買った1枚のCDを、わからないなりに何度もくりかえし聴いていた。
田舎特有の閉塞感や交友関係のわずらわしさに息がつまりかけていて、ひとり部屋で好きな音楽やラジオを聴くことが唯一の楽しみだった頃。
あれから20年。ライブの冒頭で演奏されたのは、そのCDに入っていた1曲だった。
どうやら6年ぶりに披露されたらしい「いとしのレイラ」。サプライズのレアな共演者登場。もちろん、ライブすべてが最高だったけれど。
74歳のEric Craptonが目の前で歌う「Tears in Heaven」。
その声は20年前の記憶と変わらなかった。あの時たしかに、15歳の自分がタイムトリップしてきて、武道館に座っていた。