中学生のときから、アガサ・クリスティの小説が大好きだった。いわずとしれた、ミステリの女王。やまほど作品があるので、図書館で片っ端から借りて、読んでいた。
なかでも、超ベタだけど『オリエント急行殺人事件』がものすごく好き。10代のわたしは、当時、その驚きの結末に大興奮した。
結末がわかってしまっても、ものがたりの進行をほとんど把握してからも、わたしは何度もくりかえしこの本を読んでいる。
ときには70年代に映画化された作品を見たり。(わたしはアルバート・フィニー版のポワロがけっこう好きである。意外な役で出演しているイングリッド・バーグマンも可愛い)
最近公開された、ケネス・ブラナー版の映画もすぐに見に行ったり。(ただちょっと、個人的にはイマイチだった……最後の演出……)
もはやポワロのキャラクターとか、一つひとつの伏線とか、登場人物の会話とかをニヤニヤしながら楽しんでいるわけなのだけど、ときどき、ふと思うことがある。
「大人になってから、まったく何の事前知識もない、まっさらな状態でこのものがたりに出会ったら、どんなに楽しかっただろう」
きっと、まだこのミステリを、その結末を知らない人がいるわけだ。
はじめて小説を手にとって、何もわからないまま読み進めて、最後の真相にたどりつくまでの至高の時間を、これから味わえるなんて!
それがときどき、無性にうらやましくなってしまうのだ。もはや、叶わない願いだけれど。