「あなたを表すキーワードを30個、書いてください」
数年前に参加した、とあるワークショップ。冒頭の問いかけがなされた直後、わたしはペンと真っ白なノートを前に完全に固まってしまった。
そのとき、わたしはフリーライターだった。電話の第一声も、メールの書き出しも、訪問先で名乗るのも、交流会で自己紹介するときも、いついかなるときも「ライターの大島です」と、無意識に言葉を発していた。
根っからの仕事人間であるわたしは、そのとき、「ライターである大島悠」以外のキーワードが、即座に思い浮かばなかった。ワークに取り掛かろうとしてそのことにすぐ気がつき、なんだかものすごく衝撃を受けてしまったのだ。
20代前半の頃、自分が“何者か”をアピールできないと、社会で生き残っていけないのだと思っていた。だから必死で“何者か”になろうとした結果、わたしはとりあえず「フリーライター」というラベルを手に入れた。それなりに生きていけるレベルの、肩書きを。
今年の夏、これまで使っていたその肩書きを手放した。
以来、初対面の人に自分のことを説明するとき、また言葉につまるようになった。懸命に説明しても、たぶん伝わっているのは1割もないんじゃないかなと思う。
でも今は、なんだかそれでいいような気がしているのだ。一時的には、だけど。
しばらくはこのふわふわとした状態の時間に、なんとなく、身を委ねてみようかなと思っている。それも悪くないか、と。